人民火車事情

中国に行ってきた。同じ研究室の中国人留学生がついてくれたので、ほとんど不自由なく快適な旅行だった。


まず1人で香港に行き、その後広州まで行って留学生と合流し、深セン、無錫、蘇州、上海とまわっていくというプラン。※
都市間移動はすべて電車である。

※無錫、蘇州は「蘇州夜曲」とか「無錫旅情」とか歌になっているので聞いたことはあるかもしれないが、上海から電車で1時間くらいの位置にある観光地としても有名な街である。

で、今回はその鉄道事情について。別に鉄道オタクであるわけではないんだけども気になることが多かったので…。

中国で電車の写真をとってると産業スパイに間違われる可能性がある、
と聞いたのでほとんど取らなかった


  
中国の鉄道は大きく分けて3種類ある。(上海リニアとか特別なのはのぞいて)

はじめが地下鉄。これは自分が行った都市全てにあった。無錫や蘇州は中国の中では10番めとかの都市らしいが、それでも複数走っている。やはり人口の多さは発展と直結するんだなぁ、と。


無錫か蘇州のどちらかにはわずかにトロリーバスが走っていたけど、基本的に都市内の交通は地下鉄かバスのみで路面電車は使われていなかった。(旧東側=タトラカーが走っている ではなかった)
地下鉄路面電車トロリーバス通常バスが全部そろったブダペストのように共産圏は公共交通機関が過剰に充実しているイメージがあったけど、思ったほどではない。

次が在来線。
これは最優等のZから特急のT、快速のK、普通電車の無印という種類がある。このシリーズは香港の九龍(ホンハム駅)から広州駅を結ぶZにのみ乗車。
在来線とはいえ日本のJRとは違って都市間輸送を行うためのもので、停車間隔は結構長い。なので車両としては特急形または寝台列車となる。さすが広大な中国という感じで、3日間ずっと走り続ける路線とかもあるらしい。
春節の時期などは日本の満員電車なんて目じゃないくらい満員になるらしく、椅子の下にまでびっちり人がつまるらしい。

最後が日本で言う新幹線に当たる「高鉄」。
なかでも「のぞみ」のような優等列車にあたるのがG。「こだま」的なのがD。

深センから無錫まで13時間Dにのったり、Gで無錫、蘇州、上海を行ったり来たりとよく利用した。
中国政府的には長距離列車はこの高鉄に置き換えていきたいらしく、在来線の長距離路線は減便して高鉄を増発するようにしているほか、高鉄にはふんだんに補助金を出して駅の建設や運賃の割引などにはげんでいるという。(中国人の所得を考えても、高鉄の運賃は採算がとれているとは思えないくらい安い)
とはいえ農民工なんかは高鉄にはなかなか乗ることができず、在来線の減便には反対が多いという。

高鉄や在来線は発車直前までホームに入れてくれない(飛行機みたいな感じ)ので、通り過ぎる駅はみんな人がいなくて寂しいように見えるが待合室にはきっと人海ができているのだろう。
これが割とまだまだ乗車中なのに平気で発車しようとするから怖い。その代わり乗り遅れても他の電車に振替可能だ。(日本では発車前じゃないと振替できないのはセコいぞ)

でこの電車の何がすごいかというと、高鉄はもちろん地下鉄にいたるまで荷物検査と金属探知機のチェックがあること。(香港の地下鉄のみ検査は一切ない。広州地下鉄は荷物検査だけない)
最初にのった電車が香港-広州だったので一応国際列車だし検査するのかと思ってたら甘かった。地下鉄も乗るたびに荷物をX線検査にかけ金属探知機を通る必要がある。地下鉄だと大きな駅でも検査ゲートは片手の指で数えられるほどしかなく、すごい混雑になる。

そしてそれ以上にすごいのが、金属探知機に引っかかってもそのまま通過させるところ。さすがに電車にのるためにいちいちベルトをはずしたり財布を出したりする人はいないのでかなりの人が金属探知機にひっかかるわけだが、まともにチェックしない。
荷物検査のほうもスマホをいじってる検査官がいたりでちゃんとチェックしてないところも多い。
一体何のためにやっているのだろうか。。

そして次に驚かされるのは駅の周りで夜を明かそうとする人たち。日本でも大きな駅にはホームレスがいるが、彼らはホームレスではなく電車にのれなかった人たち(おもに農民)なのだそうだ。
大都市同士を結ぶ列車は多数運行されているが、地方への電車は1日1本程度だったり。この列車の座席はインターネット予約によって事前に多数が抑えられてしまう。
しかし農民、特に上の世代の人たちは電子機器の扱いがわからず、インターネット予約はおろか駅の自動券売機の使い方もわからない。そのため窓口で切符を買おうとするのだが、座席の多くはすでにとられてしまっているので、窓口では切符を入手できないことが多い。
かといってホテルにとまるような金は持ち合わせていないので、切符をかうことができるまで駅周辺で野宿をし、来る日も来る日も窓口にならんで切符を買おうとするがなかなか買うことができない、ということだという。(高鉄のGなどは当日でも簡単に切符を買うことができるが、安い在来線は争奪戦)
中国には都市戸籍と農民戸籍の間には厳然たる違いがあり、農民はあらゆる面で差別を受けている。(農民戸籍だといい大学を出ても働き口がない、など)
そういった社会的な格差が現れているのが駅周辺の野宿組なんだそうだ。

皮肉にも農民たちが宿としている駅は自分たち農民工がつくったもの。しかし彼らは高鉄にのることもできず、自分たちが作りあげたものは自分たちに何も恩恵をもたらさない。(高鉄がふえれば在来線は減少し、農民工が乗れる列車は少なくなる)
共産主義の国で労働疎外の現実を見た。