レディ・プレイヤー・ワン再見

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レディ・プレイヤー・ワンを機会があって再び見た。 ロードショーをやっているときに見に行っているので、感想を書くのは二度目になる。

最初に見たときの感想はコチラ↓

k5trismegistus.hatenablog.com

このときの感想は今でも概ね変わっていない。リアルワールドの世界の住人がそっくりいるだけのメタバースには存在意義を見出さない人が多いだろうということだ。

FPSとかスマブラみたいな、1セッションが短いゲームであれば勝利の喜びを再び味わう楽しみも敗北の悔しさを晴らす楽しみもありえると思うんだが、そのなかのキャラクターに乗り移って継続的な「生活」を営むようなゲームでは、多くのプレイヤーは少なくとも「その世界の半分より上」にいないとその世界にいる意味を見いだせないのではないかと思う。 現実世界から逃避して、気持ちよくなるためにはそれが必須だろう。

世界にはMMORPGにはまり込む人がいるので万人に当てはまるとはいえないが、やはり多くの人にとって自分が半分より下になるようなメタバースにいる意味は感じにくいだろう。そうしたらどんどん下から人が抜けていって、今までは半分より上だったのにいつのまにか下にいってしまい、つまらなくなってやめるというサイクルになる。 現実世界にこれという居場所がなく、そこにしか見いだせないという人は半分より下でもそのメタバースに所属する意義があるのかもしれないが、そこまでの人はマイノリティである。

というわけで、「世の中の人がみんなそこにいる」ようなメタバースは成り立たないだろうという話だ。セカンドライフは失敗するべくして失敗した。

ただ、改めて見るとそれだけじゃなくてもう一つ思うことがあった。

レディプレイヤーワンを始めてみてから数ヶ月後、昨年夏にブロックチェーン・クリプト業界に転職した。というわけでその界隈の話題を知ることになった。 クリプト界隈ではクリプトキティとかマイクリプトヒーローズといった、ゲーム内アイテムがトークンの形でブロックチェーン上に記載されていて売買ができるゲームというのが存在する。こういったゲームでは、プレイ中に自分は使わないが強いアイテムが手に入ったらそれを売ってお小遣いにする、新たに始めるときに強いアイテムを買って強い状態で始めることができる。 MMORPGでのRMTはご法度なのが普通だが、それとは逆に「ゲームをするだけで稼げる」というのを売りにしているものである。

これまでもライブストリーミングでゲーム実況をして投げ銭をもらう、とか攻略サイトを作って広告収入を得る、とかゲームを使って個人が稼ぐ方法は存在していた。しかしこれらはゲームをプレイすることだけではなく、それを起点に周辺で価値を作り出していた。 でもクリプトゲームはゲームをするだけで稼げるという点で革新的である。

(e-sportsの大会に出て賞金をもらうというのはゲームプレイだけで稼いでいるといえるが、あれは誰にでもできることではないので、、)

でも、そういうゲームは原理的に面白いものにならないんじゃないかと思う。

僕の信条として、ゲームは閉じた世界でなければならないというのがある。ゲームの面白さは閉じた世界の中のバランス調整によって生まれるもので、外の世界から動機づけされるようなものは破綻するだろう。

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行動経済学の実験で、一度経済的なインセンティブによって人を動かすと、それ以外のモチベーションを殺すことができるということが示されている。 慈善の心でボランティアをやっていた人に報酬を出すようにすると、報酬なしでは動かなくなってしまう。はじめに報酬をもらうまでは無償で行っていたにもかかわらず、である。

ちなみに行動経済学関連だとこれがおもしろくてオススメ。アンカリングとかうまく使うと他人を操れると思う。

予想どおりに不合理: 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

予想どおりに不合理: 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

趣味と仕事はわけたほうがよい、というのはこれを無意識に先人たちが理解していたからある言葉だと思う。

お金が稼げるゲームは、稼げるというところしか動機が生まれない。ゲームとして面白いかどうかは評価基準にならないのである。だからそのゲームをやるかどうかは利益率だけに依存してしまう。稼げないとわかったらやらなくなる。 かといって利益率が高かったらレディプレイヤーワンに出てくるIOI社のように事業化して一般プレイヤーを蹂躙するような存在が出てくるだろう。あそこまで大規模ではないにせよ。

ゲームがどういう方向に向かっていくかについては僕は思うところがある。 今オンラインのマルチプレイヤーのゲームがあるが、これは単にAIが自然言語を理解してくれないからしかたなく人間同士でやっているだけ。もし「引くこと覚えろカス」みたいな指示を的確に理解して行動に反映できるゲームAIができたら、必然的にシングルプレイでAIが接待してくれるゲームが主流になるはずだ。 FPSだって人とやるから面白いんじゃなくて、面白いプレイをしてくれるのが今の所人しかいないというだけだ。 AIだったらいつでも好きなときに付き合ってくれるし、こっちが暴言はいたところで気分を損ねないし、関わりたくないヤバいやつだったりすることもない。

スマブラみたいなパーティーゲームは対人でのこっても、多くのジャンルではマルチプレイはなくなっていくんじゃないだろうかと思う。

というわけでレディプレイヤーワンは映画としては面白いと思うんだけど、あの世界観はないんじゃないかな。と思う。