住む 〜Maas(Mobility as a Service)の次にくるもの〜

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農耕の誕生・定住革命

最近、「Sapiens: A Brief History of Humankind」を読んでいる。「サピエンス全史」というタイトルで邦訳されているやつですね。

Sapiens: A Brief History of Humankind

Sapiens: A Brief History of Humankind

邦訳は

サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福

まだ半分くらいしか読めていないんだけど、そのなかで農耕について語られていた。 人類は狩猟採集の生活をやめ農耕を行うことによって豊かな生活を得たというのは大いなる間違いで、実際はその逆だったという。

狩猟採集の生活では、炭水化物、タンパク質、その他栄養素をバランス良くとることもできていた。しかも集団も大きくはないがあまり不平等はなく争いも少ない。もし他の集団とぶつかりそうになったらよそにうつればいいだけで、縄張りを守るために殺し合う必要もなかった。 しかし、定住し農耕によって食料を得る生活をはじめてしまったことで栄養は炭水化物に偏ってしまうし、貧富の差も生まれた。そしてなにより、戦争が起きるようになった。農耕なしで維持できるよりも多くの人口を抱えてしまうと、農地なしでは生きていけない。他人が攻めてきたとしても、簡単には逃げ出せないのだ。

人類は狩猟採集をしていたときのほうが幸せだったという話は「暇と退屈の倫理学」でも「定住革命」という用語で紹介されている。

暇と退屈の倫理学 増補新版 (homo Viator)

暇と退屈の倫理学 増補新版 (homo Viator)

より正確に言えば、農耕ができるから定住するようになったのではなく、定住をするために仕方なく農耕を始めたということである。 人類は実は決まったところにずっと住み続け同じことを繰り返す生活に慣れておらず、とてもストレスを感じるのだという。 なかなかものが捨てられない人もいるけれども、あれも本来はものというのは常に欠乏しているものであり、「いらなくなったものを捨てる」というのは本能にプログラムされていないとかなんとか。

定住・農耕は「とにかく個体数を増やす」という種の反映には寄与しているけれども、個体個体の幸福度を高めたかというと100%そうだとはいえない。

定住を強いられる現代の暮らし

現代の我々の暮らしは「定住」することを強いられている。

現代日本社会では住所がないと多くの仕事につくことができない。開かれているのは多くの場合低スキル労働のみ。 また、銀行口座を作ることもできない。そうするとクレジットカードやデビットカードを利用することもできないので金融サービスを利用することができない。(融資しないのであれば、銀行口座とデビットカードは作ってもよいはず。。) 定住していない人間と暴力団関係者は社会から排除されている。

しかし、揺り戻しの機運があるように思う。

テクノロジーによる遊牧の復権

最近住所とか交通制度に関連する本を読んでいるのだが、その一環で騎馬遊牧民の歴史に関するものを読んだ。

興亡の世界史 スキタイと匈奴 遊牧の文明 (講談社学術文庫)

興亡の世界史 スキタイと匈奴 遊牧の文明 (講談社学術文庫)

そのあとがきに、

少し前まで、遊牧民は完全に消滅するだろうと言われていた。都市型近代文明の恩恵に浴するためには、定住する他なかったからである。 (中略) しかし近年、再び遊牧が見直されつつある。 (中略) 遊牧民一家族の電力をまかなうのに、大げさな装置は必要ない。風見鶏に毛の生えた程度のプロペラと、一畳敷きほどの太陽電池パネルがあればよい。パラボラアンテナで衛星放送は見放題。携帯電話でカシミヤの毛の相場を聞き、高ければすぐに売りに出す。そういう遊牧民が増えつつある。

といったことが書いてあった。 アフリカのM-Pesaのように、携帯一個で送金ができるサービスがきっとあるのだろう、スマホがあれば住所がなくても世界経済システムに入り込んで仕事ができるのである。

日本でもノマドワーカーとかリモートワークといった言葉を聞くようになったが、あれも会社という組織が必ずしも住所がなくても運営可能になってきたことを示している。※ これもテクノロジーの発達により、住所を使わないメッセージ伝達手段が多くできたからだ。

MaaSの次に来るもの

今後、ますます住所の必然性というのはなくなっていくだろうと思う。情報はもう手紙じゃなくてメールで十分だし、物理的なモノだってコンビニ受取やロッカー受け取りといったものが出てきている。 そんななか、興味深いサービスを見つけた。

ハフ

Regidence as a Serviceとでもいうべきだろうか、月々定額の料金を払うと世界各地に用意された場所にどこでも住むことができるようになるのを目指すという。(さすがに好きなときにすぐ移動はできない。一ヶ月単位。)

「飛行機」「鉄道」「タクシー」とバーティカルに分断されいた「移動」を一括して提供するMaaSが注目を集めているが、その次は「居住」を中心にし統合されたサービスが生まれることになるだろう。 居住スペースの提供(ライフラインも含む)、荷物の預かり所、郵便・宅配物の窓口、引っ越し…など。

そして、そこではブロックチェーン技術が大きな役割を果たすのではないかと期待している。 前の記事でも書いたように、ブロックチェーン上のアドレスは次世代の住所になりうるだろう…。


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k5trismegistus.hatenablog.com

※会社の場合は対外的なコミュニケーションが住所がなくても可能になったという側面と、内部のコミュニケーションが物理的に一箇所に集まっていなくてもSlackやらHangoutやらで可能になったという側面がある